だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「時雨さん、ありがとうございます。また相談してもいいですか?」
「私でよければ、いつでもどうぞ。優しくはないかもしれないけどね」
お手柔らかに、と松山は笑っていた。少し翳りが取れた笑顔。
本当に素直な松山を見て、とても嬉しい気持ちになった。
彼女のことを大切にしているのがよくわかる。
彼女はとても幸せだろうな、と考える。
顔を見れば、松山の考えていることなんてすぐにわかってしまうに違いない。
そして、それは彼女を安心させてくれるのだろう。
なんだか、松山のことが眩しかった。
それは『若いから』だけではなく『純粋に誰かを好きでいる気持ち』がそこにあるからだった。
私も社会人になってから、何度か『恋人』と呼べる人がいたことがある。
けれど、私はいつも仕事が大切だった。
どんなに仕事を辞めても、また忙しい仕事に就いた。
仕事をしている間は、自分が今、生きている意味を見つけられる気がしていたから。
結局のところ、私はその人達を大切にしてあげられなかったんだと想う。
逢いたい、とか、傍にいたい、とか、そういう感情がすっぽり抜けていたのかもしれない。
ただ、人恋しかったり寂しいとき。
女友達では埋めてくれないものを、その人達に求めていたのかもしれない。
抱き締めていても、体を重ねていても埋まらない私との気持ちの距離を、近くにいたからこそ、その人達に感じさせてしまった。