だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
それに、私は出来なかったことがある。
とても簡単なことなのに、どうしても出来なかったこと。
それは、自分からキスをすることだった。
求められれば応えるけれど、必要以上にしたくはなかった。
そんな甘い関係でいたくなかったのだ、と今ならわかる。
結局、彼女らしいことなんて何も出来ずに、すぐ別れてしまうことが多かった。
だから、もう付き合うことなんてしたくなかった。
会いたい時に会って、寂しさを埋める。
男の人だけが与えてくれる温もりが欲しくて、そんな事を繰り返すようになった。
気持ちを動かすような人はいなかった。
だから、気持ちが触れ合わない距離を保つのが上手くなってしまったのかもしれない。
寂しさを埋めるためにいるはずなのに。
距離を保つことで冷静でいるという事実が、余計私の心を一人にさせた。
ただ、しがみつける温もりを欲していただけだった。
松山の話を聞いて、そんな自分の姿がやけに滑稽に思えた。
きっとすれ違うことは多いのかもしれない。
それでも松山と彼女は『せつない』と『いとしい』を、絶妙なバランスで抱えているのだろう。
それは、心が動いている証拠なのだ、と一人で納得してしまった。