だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
私の方を向いて小声で言う。
この辛さを男の人に説明するのは、恥ずかしい事もあってなかなか言い出せなかった。
そんな中で、水鳥さんはすぐに気が付いてくれたのだ。
「すみません、ご心配おかけして。でも、コレで少し落ち着くと思います」
そう言って、水鳥さんが作ってくれたココアを持ち上げた。
温かくて甘い匂いがする。
口をつけると身体がぽかぽかして、少し気分も落ち着いてきた。
心配そうな顔はそのままだったが、しょうがいないわね、と言うように水鳥さんは笑っていた。
『無理するんじゃないわよ』と言い残して、水鳥さんは自分の席に戻っていった。
しばらくすると櫻井さんと森川が一緒にオフィスに戻ってきた。
二人とも一日中外に出ていたので、顔は少し疲れ気味だ。
「戻りました」
「おかえりなさい。お疲れ様です」
二人に向かって声をかける。
今日中にやっておくべき事は、ほとんど終わっていた。
ココアを飲みながら少しぼんやりとする。
「あー、疲れた。しぐれ、ありがとうな。資料助かったわ」
「良かったです。お役に立てたようで」
何気ない会話を交わす。
時間が経っているおかげで、私と櫻井さんの距離感は、以前とほとんど変わらないものになっていた。
時折かすかに反応してしまうけれど、私が意識しているのはなんだか悔しい。
櫻井さんのポーカーフェイスが崩れることはなく、この人の本当の顔がどんどんわからなくなっていった。