だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「馬鹿じゃないのかっっ!体調管理も仕事のうちだろう!!無理すればいいってもんじゃないんだっ!!」
久しぶりに聞いた櫻井さんの怒鳴り声。
滅多なことでは声を荒げないこの人の、この声を聞いたのはいつぶりだろう。
申し訳ない気持ちになって俯いてしまった。
逃げ出してしまいたいけれど、今は動くことさえままならない。
「・・・すみま、せん。今日は、早めに帰ります・・から」
「もういい。体調が悪いなら少し休んでろ」
小さな声で放った私の言葉は、今にも消えそうだった。
給湯室の中の張り詰めた空気で、私の声は頼りなげに響いてしまった。
耳元で発せられた櫻井さんの声は、怒りの響きの中に『本当に心配だ』という想いを滲ませる声だった。
忙しいのに心配をかけてしまったことと、自分のふがいなさに気持ちがどんどん落ち込んでいく。
無言のままその場を動かない櫻井さん。
抱えるようにしているけれど、私の身体には一箇所も触れていない。
触れるか触れないかのギリギリの距離。
触れていないことが、余計に櫻井さんの近さを明確にしている気がした。
突然、ぐっと肩を掴まれる。
力の入らない私の手は、するりとシンクの端から離れてしまった。
屈みこんでいた櫻井さんの胸に、私はすっぽりと包まれていた。
そこから、ふわりと身体が持ち上げられたのが分かった。