だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
繚乱...リョウラン
廊下で人とすれ違うことなく、私は医務室まで連れてこられた。
医務室と言っても、仮眠用のベッドをついたてで仕切り、少しの薬が置いてあるだけの小さな部屋だ。
そっとベッドの上に横たえられる。
布団を掛けて、すぐ傍の椅子に櫻井さんは腰掛ける。
「本当にすみません。少し休んだらオフィスに戻りますから」
「戻らなくていい。とりあえずゆっくり寝てろ。帰りは送ってやるから」
「そんな・・・、これ以上迷惑をかけるわけには・・・」
「だから、誰も迷惑だなんて思ってない。俺がしたいようにしてるだけだ」
そう言ってそっと私の頭を撫でる。
その手が冷たくて気持ちがいい。
いつもなら手を振り払っているだろう。
けれど、今はとても落ち着く気がする。
身体の不調は、心に寂しさを募らせる。
心細さが積もると苦しくなる。
こんな時、誰かに心配してもらえることでそれがなくなっていくことを、私は良く知っていた。
今それをしてくれるのが、櫻井さんでよかった、と思う自分がいることは驚きだった。
「体調が良くなったら、内線で連絡しろ」
「・・・すみません」
「謝るな。寝ろ」
そう言って、櫻井さんは名残惜しそうに出て行った。
残された部屋の中は、しんと静まり返っていた。