だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





ライトアップ一分前に、舞台袖に到着した。

実は私のする仕事はほとんどなく、舞台進行状況の確認をしながら問題が出ないかどうかを見届けるだけだった。


これは、暗に。

櫻井さんが『現場を楽しめ』と配慮してくれたことに、違いなくて。

悔しいやら、嬉しいやら。

結局、あの人の方が一枚も二枚も上手なんだなぁ、と思った。


袖の慌しく行きかう人の波を見つめた後、ステージに目をやる。

ライトアップのカウントダウンがインカムから耳に流れ込んできて、ぱぁっと舞台に光が当てられる。



今年のコンセプトを映し出したスクリーンと、煌びやかなドレスを纏ったモデル達。

舞台そででは、ステージに向かうモデルの方々を凛々しくエスコートするうちの営業たち。

彼らは、やっぱり選りすぐりだと思った。


松山と篠木は緊張を顔には出さないように、精一杯エスコートをする。

緊張しているのは彼らも同じ。

それでも、モデルを気遣い、着ているドレスの名前でなく本人の名前を呼び、エスコートする。

その姿に導かれて、モデルの女性達はより一層表情豊かにステージへ踏み出していった。



中でも森川は素晴らしかった。

営業モードの森川は一人ひとりに言葉をかけ、モデルの緊張を一瞬で和らげてしまった。

些細な感情を相手の表情から読み取り、どうすれば彼女たちが安心出来るのかを知っている。

不要な言葉がない分、真っ直ぐな森川の言葉は、さぞ心地よく頼もしい物だろう。


櫻井さんの得意分野をしっかり吸収している気がして、森川の真面目さを再確認してしまう。



来年が楽しみだな、と心の底から思った。




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