だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
天井を見つめる。
櫻井さんの表情が頭から離れない。
優しく、宝物のように触れられたわけではない。
むしろ強引に抱え上げられた。
その力強さが、身体と心に残っている。
動き出しそうな心を抑えて、今は眠ろうと思う。
ふと、壁にかかったカレンダーが目に入る。
今年のお盆は土日を挟んでいる。
毎年行っていたお墓参りに、行かなくなってからどのくらいたったのだろう、と考えた。
今年もお父さんから電話が来るだろう。
『お盆くらい、帰ってきなさい』と。
ママも待っている、と連絡をくれるけれど、今は帰りたくない。
私を産んでくれた本当のお母さんは、私が生まれてすぐに死んでしまった。
物心ついたころにはお母さんがいなかったので、毎年お墓の前でしか逢うことが出来なかった。
それからお墓参りを欠かしたことはなかった。
お父さんとママと湊。
家族四人で必ずお墓に行く。
新しい家族がいるから、安心してね、と言って。
そして、湊の本当のお父さんのお墓にも。
私のお母さんと湊のお父さん。
二人とも死んでしまった。
お父さんもママも寂しい心を埋めてくれる、大切な人を見つけたのだ。