だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
私だって。
湊だって。
寂しかった心を埋めてくれる家族と、かけがえのない大切な人を両方手に入れていた。
初めて恋を教えてくれた。
初めてを沢山くれた。
初めて本当に欲しいと想った。
湊の存在を表す言葉が、どうして世の中には一つじゃないんだろう。
けれど、櫻井さんはそんな湊に良く似ている。
いつも想っていた。
面影が重なる。
言葉が。
背中が。
あまり考えすぎるともっと苦しくなるのは明白だった。
無理矢理目を閉じて、眠りを待つ。
なかなかやってこない眠気に、吸い込まれるのを待っていた。
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遠くで声がする。
なんだか騒がしい声だ。
もう少し眠りたい気もするけれど、気になってしまう。
廊下から聞こえる声が医務室まで響いている。
私は気が付かないうちに眠っていたらしい。
目が覚めたとき、身体はだいぶ軽くなっているように感じた。
声に耳を澄ませる。
女の人と男の人の声。
女の人が時折大きな声で男の人に向かって話しているようだ。
まだぼんやりしている頭では、そのくらいしか確かめられない。
耳を澄ませて目を閉じる。
だんだんと頭の中がすっきりしてきた。