だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
もう一度目を開けて時計を確かめる。
時刻は二十時半を指していた。
医務室に連れてこられて一時間が経っている。
どうりですっきりしているはずだ。
下腹部の鈍い痛みはまだあるが、めまいや気持ち悪さはほとんどひいていた。
廊下の声は少しずつ大きくなっている。
聞こえてきた声の主に気が付いて、息をのむ。
「櫻井君、あの子のこと本気なの!?」
「おい、静かにしろ。まだ会社には人が・・・」
「知らないわよっ!そんなこと!!」
「おい、杉本――――――」
「亜季って呼んでよ!いつも、そう呼んでたじゃない・・・。どうしてよ、私のほうがもっと近くにいたじゃない!?」
杉本さんの声がする。
そして、今彼女は櫻井さんの名前を呼んだ。
胸の鼓動が早くなっていく。
いけないことだとわかっていても、聞き耳を立ててしまう。
「だから、落ち着けって」
「嫌よ!どうして終わりにしなくちゃいけないの!?」
「亜紀っ!!」
「一番近くにいたわ。ずっと・・・傍に、いたわ」
二人は、付き合っている・・・?
もしそうだとしたら、社内の人でこのことを知っている人はどのくらいいるのだろう。
いや、知っている人なんてほとんど居なかったのだろう。
そうでなければ、彼女が『櫻井狙い』だなんて、呼ばれたりはしないだろうから。