だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「落ち着け、亜季。お前に甘えてたんだ、ズルズルと、先が見えないまま。そんなのは、もう終わりにしないといけないんだ」
「いいじゃない、そのままで。なんで急に・・・っ!」
「急じゃない!急じゃないんだ。本当はずっとなんだ。あいつがこの会社に来たときから。時雨が――――――」
「名前で呼ぶのはやめてっ!他の女を名前で呼んだりしないでっ!特別みたいに言わないでよ・・・」
頼りなげな杉本さんの声がかすかに響いてくる。
きっと泣いているに違いない。
声が震えていた。
けれど、人が動く気配がしない。
声以外の物音がしない。
気が付くと、何が起こっているのか、壁の向こう側に必死に耳を立てていた。
「なんでよぉ・・・、どうして私じゃないのよ・・・」
「亜季・・・」
「私以外の女なんて、傍にいなかったじゃない」
「あぁ。俺の傍にいたのは、お前だけだ」
「じゃあ、これからもそうさせてよ、圭都・・・」
圭都。
櫻井さんの下の名前に縋る声。
女の人が櫻井さんをそう呼ぶのを初めて聴いた。
「もう、そんな俺でいられないんだ。亜季に縋るのは、もうやめる」
「・・・いいじゃない。女を抱きたくない男なんて、いないわ」
「まぁな。でも、それじゃ狡いだけだろ?俺が」
「じゃあ!!狡いままでいいから・・・。傍にいさせてよ・・・」