だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「どうしてって言われてもな。わかんねえよ、俺にも。かなうわけもないのに」
かなうわけもない?
そんな気持ちで触らないで欲しかった。
切ないばかりの想いが、この狭い医務室には充満していた。
遠くから足音が近づいて、ドアが開かれる。
「櫻井君いる?今日の仕事は落ち着いたから、シグ送って帰っていいって。カズから伝言」
「了解です。ってか、会社でその呼び方しない方がいいですよ」
「あら、別にいいわよ。うちのメンバーならわかってくれるでしょうから」
「ほんとに水鳥さんはお気楽ですね。アイツももう少し見習えばいいのに」
「亜季は仕方ないわよ。今更納得なんてしてくれないだろうから。櫻井君が悪い」
「わかってますよ、それくらい」
ふふふ、と笑いを残して水鳥さんは部屋から出て行った。
今の会話の内容はなんだったのだろう。
頭が付いていかないことばかりだ。
カズって誰?
バレてもいいって?
櫻井さんと杉本さんのことを、水鳥さんは知ってた?
今日は頭を悩ませることが多すぎる。
ぼうっとしたままの私には、色々なことが入り乱れて整理しきれていなかった。