だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
なんとか動くことが出来るようになり、今は櫻井さんの車に揺られていた。
今日は一日外回りだったので、自分の車で回っていたらしい。
自分で帰ろうと思えば帰れたのだけれど、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。
先延ばしにしたままの話をする、いい機会だと思った。
「すみません、わざわざ送って頂いて」
「気にするな、って言っただろう。ちゃんと送って行けって、俺が怒られたくらいだ」
それを聞いてくすくすと笑ってしまった。
チームのみんなの顔が思い浮かぶ。
申し訳ない気持ちもあるけれど、そんなに心配してくれるみんながいることを、とても嬉しく思った。
窓の外を流れる景色は、昼間とはうって変わってどんよりとした雲に覆われていた。
今にも雨が降りそうな気配を感じて、空を見つめていた。
車の中から空を見上げるのは、とても久しぶりだった。
「少し、顔色が良くなったな。さっきまでは真っ青だったから、みんな心配してたぞ」
「これからは、無理しないようにします。余計に心配をかけるだけだって、ちゃんとわかりましたから」
会社を出るときオフィスに戻ると、みんなが本当に心配そうな顔をしていた。
特に松山は、ずっと一緒にいたのに何も出来なくてすみません、と謝ってばかりいた。
明日にはいつも通りになって戻らなくては、と思ってまた少し笑いが漏れた。
そうしろ、と真っ直ぐ前を見据えたまま、櫻井さんは笑った。
さっきまで流れていた空気とは違う、居心地のいい空間。
この人が放つ空気は、どうしてかいつも私を包み込む。
それが肌を刺すような緊張でも。
今のように緩やかな空間でも。
切なさに溢れた苦しいものでも。
横目に運転をする櫻井さんを見て、綺麗な横顔だな、と思う。
ずっと見ているわけにもいかないので、ほんの少しで目を逸らす。
フロントガラスには小さな雨粒が当たり始めていた。
夏の終わりに降る雨。
ぬくもりが欲しいと想わせる雨だな、と思う。