だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
家に帰るまでの間、私達はほとんど言葉を発しなかった。
それは、故意にそうしたわけではなく、話さなくても傍にいるだけで嬉しかったからだ。
湊が目の前にいて、触れようと想えば触れられる距離にいる。
そのことが、私の心を満たしていった。
けれど、時折とてつもなく湊に触りたいと想った。
柔らかい髪も。
綺麗な肌も。
細いけれど、私よりもしっかりとした身体も。
湊をカタチ作る全てに、触りたい、と想った。
ただでさえ、普通の恋愛ではない。
義理といえど、兄妹なのだから。
誰にも言えないし、気付かれてもいけない。
十二歳のあの夏からずっと、大切にしてきたこと。
今更、離れることなんて出来ない。
でも、湊は?
もう何も知らなかった子供ではない。
私以外の誰かに触れる湊を想像するだけで、胸が痛くてたまらない。
きっと、湊は私ではない女の人を触っていたのだろう、と想う。
小さな子供だった私にはあげられないものを、誰かに貰っていたのかと想うと苦しくてたまらなかった。
不意に襲い来る焦燥感に目を背ける。
家に着くまで、色々なことが頭の中で渦巻いていた。