だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「今日は随分おとなしいね」
車から降りて玄関に向かう時、湊が言った。
変な想像をしていたことを悟られたくなくて、ふいっと下を向いた。
そんな私の態度を見て、湊はそっと手を繋いでくれる。
いつまでも、小さな子供にするように優しい。
「何を一人で悩んでいるの?」
湊は私の右耳に近寄って問いかけた。
耳にかかる湊の声にまで、反応してしまう。
意識をして身動きが取れなくなってしまっているのは私一人で、余裕の湊がなんだか腹立たしかった。
「なんでもない」
ぼそっと言った言葉は、不機嫌な声になってしまった。
その言葉を聴いた湊は、玄関の鍵を開けて強引に私を連れて家に入った。
ぱたんとドアが閉まると同時に、そのドアに背中を押し付けられる。
私の手を離した湊の左手は、私の顔のすぐ横に置かれていた。
もう片方の手で鍵を閉めて、そのまま私の腰に手を回す。
おでこが触れるか触れないかのところで、湊が私をじっと見つめていた。
「何がそんなに気に入らないの?車に乗るまではご機嫌だったのに」
二人でお出かけをして、二人でご飯を食べた。
外でデートすることは少ないので、私はとてもご機嫌だった。
湊が買ってくれた新しいワンピースは大人っぽい素敵なもので、湊と一緒に歩いてもいいのだと想って嬉しくなった。