だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
でも。
欲しいのはそんなものじゃない。
だって。
私ばかりが求めているようで苦しい。
私の考えは、いけないことなのかもしれない。
それでも欲しいと想ってしまう。
湊に欲しがられたい、と想ってしまう。
私はもう大人に近づいていることを、湊だって知っているはずなのに。
「時雨。言って」
湊の声は、もう優しさを含んではいなかった。
顔の横にある左手は、ぎゅっと握って力を込めていた。
腰に回された手は、苛立ちを隠せずに強く私を抱きしめていた。
顔を上げた私は、涙を堪えることに必死で。
それをこぼさないようにと、必死だった。
私を見つめる湊の目は、あの時と同じ大人の男の人の目をしていた。
あの十二歳の夏と、同じ目。
苛立つ度に、本能が揺れる湊の目。
その目を、向けられることさえ嬉しい。
怖さも、嬉しさも。
全部『いとしい』。
「私ばっかり。時雨ばっかり、湊を好きみたいで苦しいよ」
とうとう耐え切れなくて、泣いてしまった。
ぽろぽろと落ちる涙の数だけ、好きな気持ちが溢れる気がした。
「湊の全部が欲しいよ。でも、湊は?そうじゃなかったら、って。私ばっかり求めてるみたいで、苦しいよ」
湊の眉間に大きく皺が刻まれる。
私を見つめる目は、もう限界だ、といわんばかりに揺れていた。
「湊に触りたいよ。私、もう何も知らない子供じゃないよ」