だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





でも。

欲しいのはそんなものじゃない。

だって。

私ばかりが求めているようで苦しい。




私の考えは、いけないことなのかもしれない。

それでも欲しいと想ってしまう。

湊に欲しがられたい、と想ってしまう。



私はもう大人に近づいていることを、湊だって知っているはずなのに。




「時雨。言って」




湊の声は、もう優しさを含んではいなかった。

顔の横にある左手は、ぎゅっと握って力を込めていた。

腰に回された手は、苛立ちを隠せずに強く私を抱きしめていた。




顔を上げた私は、涙を堪えることに必死で。

それをこぼさないようにと、必死だった。

私を見つめる湊の目は、あの時と同じ大人の男の人の目をしていた。


あの十二歳の夏と、同じ目。




苛立つ度に、本能が揺れる湊の目。

その目を、向けられることさえ嬉しい。



怖さも、嬉しさも。


全部『いとしい』。




「私ばっかり。時雨ばっかり、湊を好きみたいで苦しいよ」




とうとう耐え切れなくて、泣いてしまった。

ぽろぽろと落ちる涙の数だけ、好きな気持ちが溢れる気がした。




「湊の全部が欲しいよ。でも、湊は?そうじゃなかったら、って。私ばっかり求めてるみたいで、苦しいよ」




湊の眉間に大きく皺が刻まれる。

私を見つめる目は、もう限界だ、といわんばかりに揺れていた。






「湊に触りたいよ。私、もう何も知らない子供じゃないよ」




< 163 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop