だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「雨が降ってるね」
湊は窓のほうへ目を向けてそう、呟いた。
静かな雨は、無駄な音を無くしてくれる。
今聴こえているのは、私と湊が呼吸をしている音だけだ。
じっと窓を見つめる湊を見て、想う。
手をつないで雨の中にいたい、と。
「ねえ、湊。お散歩がしたい」
驚いた顔をして、私を見る。
この目に映ることが出来て、本当に嬉しい、と。
今、想う。
「身体は平気。それよりも、湊とお散歩がしたい」
私がそう言うと、心配そうな顔をしながらも、湊は嬉しそうに笑った。
そして私を、ぎゅっと抱き締めてくれた。
同じ力で抱き締めてあげたかったけれど、湊の力と同じに出来ない。
そんな自分が悔しかった。
夏の雨は涼しげで、湊のお気に入りなのを私は知っていた。
だから、その湊の好きなものの中に、二人で行きたかったのだ。
「やめておこう、今日は。大分、無理をさせたから」
「なんで?私は、嬉しかったよ?」
「でも・・・」
「湊と一緒に、雨の中を歩きたい。いつも、そうしてたみたいに」
「時雨・・・」
「連れて行って、湊」
湊が私を見つめている。
その瞳は今までと同じはずなのに、違う。
そのことがとても嬉しかった。