だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
結局、私の我儘を聞いてくれた湊。
静かに雨の降る中、二人で傘をさして公園まで歩いた。
大きな傘は沢山あるけれど、二人がいつも使っている私の折りたたみ傘を使うことにした。
湊の歩くペースが遅い。
それが、私の為だということがすぐにわかった。
私の右手は、いつもと同じように湊の左手に絡ませていた。
いつもと同じ道。
いつもと同じ距離。
それなのに、より近くに湊の存在を感じる。
見上げると、そこには何も言わない湊がいた。
私を見て笑う顔。
何の言葉もなく、いつものように顔を寄せてキスをするわけでもない。
ただ、お互いの目の中に自分が映っていることを確認するだけだった。
けれど、確かに心は触れ合った。
傍にいるだけで、二人の身体の境界線なんて越えてしまっていた。
夏の雨は、なんだか清々しい。
昼間の暑さを抑えるような冷たさを帯びている。
身体にこもったままの熱も、きっと冷ましてくれるのだろう、と思った。
「夏の雨は涼しいね」
湊のほうを見ずに真っ直ぐ前を向いたまま、私はぽつりと言った。
私の声に耳を立てて、湊は小さく頷いてくれた。