だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「夏の終わりは秋を連れてくる。だから、涼しさを運んでくる雨なんだよ。静かに、ゆっくりと」
本当に静かだ、と思った。
小さな傘の中に私達、二人しかいない。
この小さな空間は、確かに私達だけのものだ。
「夏の終わりは、寂しくなるね。なんだか無性に切なくなる」
季節としては、とても好きな時期だ。
秋が一年で一番好きな私は、夏の終わりも大好きだった。
それなのに、胸の奥が締め付けられるほど切なくなる時。
「この雨も、夏の終わりが近いことを知っている。だから、切なさも連れてくるんだ」
そうかもしれない。
だから、清々しいのにこんなにも苦しい。
さっき、私達は全てのものを共有したばかりで、何もかもが始まったばかり。
なのに、この雨を見ていると終わりが始まりを連れてくるのだと、想い知らされる。
それは同時に、始まりが終わりを連れてくることも教えているようだった。
「・・・切ない」
「え?」
「こんなに近くに湊がいるのに、とても切なくなる」
そう言うと、湊はそっと私の肩を抱き締めた。
傘の中に閉じ込めて、どこにも行かせない、とでも言うように。