だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「ごめんなさい」
私は冷静に、櫻井さんの瞳を見つめて言った。
目を逸らすことなく、真っ直ぐ目の前の人を見つめていた。
櫻井さんは何も言わず、ただじっと私と向き合ったままだった。
その目の中は、揺れてはいなかった。
「さっき、医務室の外での声が聞こえてました。廊下での杉本さんとのやり取り」
はははっ、と乾いた笑いを吐き出す。
自嘲的。
そう、こういう笑い方のことをそう呼ぶのだと、私はもう知っている。
「なんだ、それかよ。知ってたよ。起きてたっぽいなとは思ってた」
そう言って、額に手を当てて少し俯いた。
「俺はてっきり、返事をされるのかと想ってたよ。・・・あぁ、そんなに簡単に言えるのか、って想ってた」
櫻井さんは、目線を真っ直ぐ前に向けた。
動揺するわけでもなく。
ただ、そうした、という感じだった。
櫻井さんの言うことは、あながち間違ってはいない。
きっと、私は冷静にそれを告げることが出来るのだろう。
でも、その前に聞きたいことが沢山あった。
「正直、最低だと想いました。でも、似てると想いました。自分に」
「時雨に?」
「はい。私も、ずっと同じだったから。櫻井さんと」
「そうか」
「そこから抜け出すことが出来るのは、凄いことだと想います。・・・残酷でしたけど」
「言い訳は、しねぇよ」