だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
誤魔化しもなく、言い訳もない。
この人は、やはりとても強い人だと想った。
そして、素敵な人だ、と。
「そんな気持ちが自分に向いているというのは、有り難い反面、苦しいです」
横顔を見ていることが出来なくなって、私は俯いた。
そして、更に言葉を重ねていった。
「叶わない、って言いましたよね?そんな風に想ってくれてたんですか?それなのに、私に伝えてくれたんですか?そんなのって・・・」
「待て」
そう言うと、櫻井さんはこちらを向いた。
そして、ふるふると首を振る。
違う、と言いながら。
「多分、しぐれは意味を取り違えてる」
私は意味がわからなくて、目線で問いかける。
暗い中で、それが伝わったかどうかは、わからなかった。
「想いが『叶わない』って言ったんじゃない。相手に『敵わない』って言ったんだ」
「相手って、私ですか?」
「湊さんに」
息が、止まるかと想った。
どうして櫻井さんの口から湊の名前が出てくるのか、私には全く理解できなかった。
とても自然に名前を出し、そして『湊に敵わない』と言った。
それは同時に、私と湊のことを知っている、ということだ。
誰にも話さないで、大切にしてきたこと。
どうしてそれを、まだ出会って三、四年しか経っていない櫻井さんが知っているのだろうか?
頭の中では、疑問符ばかりが渦巻いていた。