だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
私の疑問を見透かすかのように、櫻井さんは続けた。
「ちょうど今くらいの季節かな。真夜中に散歩ついでで、湊さんの家の近くまで行ったんだ。たどり着けたら、本を返そうと思って。インターホン押しても、誰も出なくて。帰ろうと思ったとき、小さい傘で歩いてるのを見つけたんだ」
ぎくりとする。
でも、まさかあの日のわけはない、とも思う。
「小さな傘の中で、湊が女の人の肩を抱いてた。声をかけようかと思ったけど、出来なかった」
「どう、して?」
「二人の世界、だったから」
雨の日の夜の散歩は、いつものことだ。
そして、いつも二人だけの世界にいたのだ。
だから、そんなわけはない。
さっき想い出していた、あの日だなんて。
そんな確証は、どこにもない。
「最初は彼女かな、って思ってたんだ。でも、俺の知ってる女なんかじゃなかった」
「カノジョ・・・」
「湊さんに彼女を紹介されたことは、一度もないんだ。まぁ、周りに女は沢山いたけどな」
心の中が黒くなる。
なんだ、やっぱり私以外の女の人が近くにいたんだ、と今さら想い知らされる。
「で、よく見たら妹だなって、すぐわかった。特徴とか聞いてたから」
流れていた涙を拭う。
冷静に受け止めなくてはいけない気がしていた。
話し続ける櫻井さんの横顔を、じっと見つめる。