だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「湊・・・らしい」
「そうだろ?だから、俺聞いたんだ。そんなに妹さんが大切ですか?って。そしたらなんて言ったと想う?あの人」
湊の名前を呼ぶと、やっぱり涙が溢れてきた。
くすくすと笑いながら、懐かしい湊の面影を想い出し続けていた。
櫻井さんの言葉に、涙を拭きながら首を傾げ目だけで問いかける。
そうすると、満足そうに櫻井さんは笑った。
「他のもの全部捨ててもいいくらい、だって。俺にも『時雨』って名前は教えてくれたけど、名前さえ口にするな、って」
嬉しいやら、可笑しいやらで私は何も言えなかった。
ただ笑顔になるのを、止めることが出来なかった。
「お前は、湊さんのためにそんな顔をするんだな」
眩しそうに、櫻井さんが私を見ている。
それは、純粋な憧れを眼差しに込めていた。
その顔に胸が揺れる。
どうしようもなく、胸の奥が苦しくなっていく。
「そこまで知ってるのに、どうして?私は湊のことを今でも――――――」
「今でも好きだからって?そんなのあの人は望んじゃいないさ」
私の言葉を遮る口調はとても強い。
さっきまでの柔らかな目ではなく、男の人の目をしていた。
「人一倍、独占欲が強いくせに変なところ頑固で。『自分は一番大切な人を諦めたほうがいいのかも』って馬鹿なことも言ってた。『ただ、幸せにしたいだけなんだ』って」