だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





七年前。

その言葉にはっとした。



そうか。

櫻井さんは、『あの時』、あそこにいたのだ。




湊といつも一緒にいた櫻井さんが、いないはずはないと思った。

そしてこの人と湊は、とても仲が良かったに違いない。

そうでなければ、こんなにもこの人が湊に似ているはずがない。



湊も、この人を大切に想っていたに違いなかった。




「七年前の秋晴れだったあの日。俺は、湊さんを見送りに行ったよ」




七年。

まだ、それしか経っていないの。

それとも、もうそんなに経ってしまったの。


まだこんなにも沢山の湊で溢れている私の記憶は、いつでもすぐ傍に湊を感じているのに。




いつも想う。

どうして今ここにいないのか、と。

いたらきっと、櫻井さんに見せつけるようにして私に触れるだろう。

そして、不敵に笑う湊に、櫻井さんと二人で笑えるはずなのに。




「みんな泣いてた。でも、時雨だけは、涙も見せず無表情に湊さんを見つめていた。凛とした空気に包まれたお前が、焼き付いて離れないんだ」




そう言って、櫻井さんはぐいと私を抱き締めた。

いつの間にタバコを消したのだろう。

そんなことばかり、必死に考えていた。




けれど、私は閉じ込めた記憶が溢れてくるのを止められなかった。

抱き締められた腕にしがみついて、私は嗚咽を漏らした。






やめて。

これ以上、想い出させないで。




< 185 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop