だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
七年前。
その言葉にはっとした。
そうか。
櫻井さんは、『あの時』、あそこにいたのだ。
湊といつも一緒にいた櫻井さんが、いないはずはないと思った。
そしてこの人と湊は、とても仲が良かったに違いない。
そうでなければ、こんなにもこの人が湊に似ているはずがない。
湊も、この人を大切に想っていたに違いなかった。
「七年前の秋晴れだったあの日。俺は、湊さんを見送りに行ったよ」
七年。
まだ、それしか経っていないの。
それとも、もうそんなに経ってしまったの。
まだこんなにも沢山の湊で溢れている私の記憶は、いつでもすぐ傍に湊を感じているのに。
いつも想う。
どうして今ここにいないのか、と。
いたらきっと、櫻井さんに見せつけるようにして私に触れるだろう。
そして、不敵に笑う湊に、櫻井さんと二人で笑えるはずなのに。
「みんな泣いてた。でも、時雨だけは、涙も見せず無表情に湊さんを見つめていた。凛とした空気に包まれたお前が、焼き付いて離れないんだ」
そう言って、櫻井さんはぐいと私を抱き締めた。
いつの間にタバコを消したのだろう。
そんなことばかり、必死に考えていた。
けれど、私は閉じ込めた記憶が溢れてくるのを止められなかった。
抱き締められた腕にしがみついて、私は嗚咽を漏らした。
やめて。
これ以上、想い出させないで。