だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
想い出すのは、そんな風に生きているときのことばかり。
たとえ、消毒液の匂いがしても。
私を甘やかす湊ばかり。
男の人の顔をしている時ばかり。
私を見つめる瞳ばかり。
「・・・それでも。私は、忘れられないんです。きっと、今も上手く受け入れられないままなんです」
そう言って泣きじゃくる。
泣くことは出来ても、理解なんてしたくなかった。
だから、お父さんに言われてもお墓参りになんて行けない。
あの日を想い出すだけで、こんなにも苦しい。
どうして?
どうして湊なの?
もっと、言いたいことがあったのに。
もっと、してあげたいことがあったのに。
もっと、ずっと一緒にいられると想ってたのに。
「それでもいいから、頼ってくれよ。湊のことを想ってる時に、俺を呼べ」
何も応えられなかった。
どうしていいか、わからなかった。
応えられないなら、この腕を押しのけなくてはいけない。
けれど、今はこの胸を借りて泣いていたい。
溢れた気持ちは、とめどなくこぼれた。
何も言わず、櫻井さんは抱き締めてくれた。
私は結局、腕を振り払うことなんて出来なかった。
矛盾した感情が、私を溺れさせていた。
ただフロントガラスの奥でフィルターがかかったような街の夜景が、私たちを見ていた。