だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
泣く場所は、決めている。
可能な限り、一人で泣きたいと思っている。
誰かに判って欲しくて涙を流すことは、もうほとんどないだろうから。
自分の部屋のベッドの隅。
夜の風に包まれたベランダ。
夏の匂いのする、キャンドルを灯した部屋。
本当は、もう一か所あったのだけれど。
今はもう手の届かない場所。
あの人の腕の中は、私をとても素直にさせた。
その体温と心臓の音さえあれば、いつだって泣ける気がしていた。
でも、優しさに溢れたあの腕は。
今はもう、此処には無い。
それでも逃げ場所を作るのは、得意な方だ。
その逃げ場所は、誰にも頼ることなく作るべきだと。
そう考えている。
ぽんと頭に置かれた手が離れて森川が歩き出す。
その背中に追いついて二人で第二本部を目指した。
グランドフィナーレをモニターで見ていた櫻井さん。
普段はクールぶってるけれど、イベントが終わった後『お疲れ―!』と大きな声で叫ぶのが通例だ。
第二本部で喚いているだろう、櫻井さんを思い浮かべる。
はしゃぐ姿が容易に想像できて思わず笑ってしまう。
怪訝そうな顔をして振り向く森川に目線を向けた。
「第二本部、うるさそうじゃない?」
そっと森川に伝えると、笑いを堪えるように口に手を当てた。
きっと森川だって同じ想像をしているだろう。
クスクスと肩を震わせながら、第二本部に向かって二人で歩調を合わせた。