だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





泣く場所は、決めている。


可能な限り、一人で泣きたいと思っている。

誰かに判って欲しくて涙を流すことは、もうほとんどないだろうから。



自分の部屋のベッドの隅。

夜の風に包まれたベランダ。

夏の匂いのする、キャンドルを灯した部屋。



本当は、もう一か所あったのだけれど。

今はもう手の届かない場所。

あの人の腕の中は、私をとても素直にさせた。

その体温と心臓の音さえあれば、いつだって泣ける気がしていた。


でも、優しさに溢れたあの腕は。

今はもう、此処には無い。



それでも逃げ場所を作るのは、得意な方だ。

その逃げ場所は、誰にも頼ることなく作るべきだと。

そう考えている。




ぽんと頭に置かれた手が離れて森川が歩き出す。

その背中に追いついて二人で第二本部を目指した。

グランドフィナーレをモニターで見ていた櫻井さん。

普段はクールぶってるけれど、イベントが終わった後『お疲れ―!』と大きな声で叫ぶのが通例だ。


第二本部で喚いているだろう、櫻井さんを思い浮かべる。

はしゃぐ姿が容易に想像できて思わず笑ってしまう。


怪訝そうな顔をして振り向く森川に目線を向けた。




「第二本部、うるさそうじゃない?」




そっと森川に伝えると、笑いを堪えるように口に手を当てた。

きっと森川だって同じ想像をしているだろう。


クスクスと肩を震わせながら、第二本部に向かって二人で歩調を合わせた。




< 19 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop