だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「心臓に悪いことしないでくださいっ!水鳥さんも一緒に試着しますか?」
「もちろんするわ。せっかくの機会ですもの。プロのスタイリストさんに磨いていただきましょう」
「そうですけど、なんだか気後れしてしまいます・・・」
「あら、もったいない。シグはまだまだ若いんだから。ドレスに憧れあるでしょう?」
「・・・憧れ、ですか」
実は、そんなに憧れがないなんて言ったら、水鳥さんはどんな顔をしてくれるだろう。
少し切なそうな、それでいて心配そうな顔をしてくれるのだろ。
そんな顔はさせたくないと思って、ゆっくりと微笑んだ。
その先には、ドレスに夢中になっている女性スタッフの姿があった。
沢山の女性達がドレスに向かって歩み寄っている。
よく考えるとモデルさんの人数の方が多く、女性スタッフなんて二十名前後しかいない。
ヘアメイクさんの数だってそんなに多くない。
モデルさんだって普通の人よりも衣装選びが上手なので、一緒に選んでくれるようだ。
水鳥さんに背中を押されて衣装選びに向かう。
おずおずとドレスを見ていると、一人のモデルさんが隣に立っていた。
長い手足に綺麗な体のライン。
並ぶのも恐縮してしまうような美人さん。
「よろしければ、ご一緒にお選びしましょうか?」
優しく声を掛けられ、なんだか一気に気を許してしまった。
柔らかい声は人をほっとさせてくれる。
この人となら、きっと素敵なドレスを選べるだろう。
そんな予感を想いながら、沢山のドレスの中へと進んでいった。