だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
孵化...フカ
「ありがとうございます。お願いできますか?自分では何がいいかなんて分からなくて・・・」
「いいえ。なんだか、さっきの舞台袖にいた時とは別人のようですね。今の方がずっと、可愛らしい」
「え、あぁ。なんだかスミマセン・・・」
困った顔をした私を見て、にっこりとそのモデルさんは微笑んだ。
『可愛らしい』なんて言われて、顔が赤くなるのがわかった。
舞台袖にいる時はしっかりしなくては、と思って仕事モードの顔だったから。
「ヘルプで入っていらしたんですよね?男性達のエスコートもあなたの的確な指示も、私達にとっての大きな安心材料なんです。モデルは緊張したままでいい仕事が出来ませんから」
「そんな。私達はただ、運営することしか出来ないだけです」
「いいえ。運営のことだけなら、実際どの会社さんにお願いしても同じです。でも、今回は特別でした」
「特別・・・、ですか?」
「はい。特別でした」
ドレスを選びながら話しかけられる。
そんな風に言ってもらえるなんて。
私達が全て準備してきた訳ではないけれど、そんな言葉を貰えるなんて。
自分達の仕事を認めてもらえたことが、今何よりも嬉しくて。
胸の奥の方が、とても温かくなった。
「素敵な舞台をご用意いただいて、本当にありがとうございました」