だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
また涙が出そうになった。
とても落ち着いた雰囲気のモデルさんだけれど、きっと私よりもずっと若いのだろう。
沢山の舞台に立って様々な現場を見ているのに。
今回の舞台を『特別』と言ってくれた。
その言葉を貰えたことが、何よりも嬉しかった。
「お礼を言うのは私の方です。一緒にお仕事が出来て、本当に嬉しいです」
「またご一緒出来るのを、楽しみにしています。それまで私も頑張りますね」
「私も、頑張りますね」
彼女はにっこりと笑った。
そして、ドレスを選ぶのに二人で夢中になった。
私の体系に合わせた、シンプルなドレス。
カクテルドレスと純白ドレスの二種類とも着てみよう、ということになってしまった。
そんなに時間を使っていいのか、と思ってそっと訪ねるとモデルさんに笑われてしまった。
「会長はこの為に、会場を二時間ほど使えるようにしてあります。これはスタッフの皆さんは知らないことらしいですけど。なので、全ての方に二着ずつ試着をして頂いても、充分に時間が足りる、ということです」
それを聞いてぽかんと口が開いてしまった。
そんなの聞いたことがないんだけど。
普通の会社さんは、どんな大きな会社さんでも会場費節約のために時間が延長しそうな場合の交渉をして会場を抑えるはずだ。
しかも手配をするのは、うちのような代理店。
その会社が手配をした後、自費で会場を借りていることになる。
そんなことって。
手厚いにも程がある。
これほどの気配りが出来るなんて、女心をしっかりと心得ていらっしゃる。