だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「白のドレスは誰かと一緒に二人で撮るといいわ。特別なものでしょう?」
ウエディングドレスを着て誰かと二人で写真を撮る。
そんな日が来るなんて、想いもしなかった。
純白のドレスは、王道のふんわりしたAラインドレスだった。
左肩がワンショルダーになっているタイプで、そこには薔薇の形をしたレースがあしらわれていた。
薄手の肘までのグローブにチョーカーの真ん中にサファイアをあしらったアクセサリー。
チョーカーから垂れるようにチェーンが伸びている。
度胸はついても、踏ん切りはつかない。
こんな『花嫁』姿で、誰かと並ぶなんて。
お遊びだとわかっていも、足が竦んでしまうのだ。
けれど、着てしまった以上はステージに向かわなくては。
水鳥さんはまだ用意をしているようだったので、一人でステージに向かった。
ステージにはみんないたけれど、舞台袖のすぐ近くにしっかりとスーツを着た櫻井さんが立っていた。
――――――背中が、見える――――――
後姿に懐かしい影を重ねそうになる。
一度、目を閉じて振り払う。
「お手をどうぞ」
いつもの笑顔ではなく、本当の優しい顔。
人がいるところではあまり見せないけれど、今は私の方を向いているので他の人には見えないだろう。
嬉しそうに笑う櫻井さんに、動揺を隠すように満面の笑みを返す。
差し出された左手にするりと右腕を絡める。
すっぽりと包まれる感覚。
絡めた感覚が、私の胸を苦しくさせた。