だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
少し私を見下ろして優しく笑う顔が、切ない。
奥のライトが眩しくて、少し目を細める。
映されたシルエット。
肘の高さ。
細い身体。
私、知っている。
この『感覚』を。
湊。
貴方の感覚を想い出させる人が、こんなにも近くにいる。
この姿を湊の目に映して欲しかった。
チームのみんなは、やっぱりぽかんとした顔で見つめていた。
いつもより少しだけ自信のある顔で、みんなに笑いかけてみた。
隣から低い声がする。
「見違えたな。森川にエスコートなんかさせるんじゃなかった。もったいねぇ」
拗ねた子供みたいな声を出して、真っ直ぐ前を向く。
大人のくせに子供みたいな櫻井さんは、いつもの顔をしていた。
気恥ずかしいのか、後悔しているのか。
私には分からないけれど、この人の腕の感覚は何故か安心感をくれていた。
初めて組んだ腕とは、思えないほどに。
「何ですか、それ?櫻井さんはタキシード着て待ってるのかも、とか考えてました」
「それいいな。やっておけばよかったな」
クスクスと笑いながら櫻井さんのほうを向く。
ちぇっ、というのが聞こえそうなくらい子供みたいな声を出す。
ますます可笑しくなって二人で笑った。
この写真に残る二人は、きっと凄く幸せそうな写真になるに違いない。
綺麗に残るのは嬉しいけれど。
緩やかに色褪せていくことを考えて、少し淋しくなった。