だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
郷愁...キョウシュウ
少し湿った空気を纏う六月の半ば。
鞄の中に、ひとつの傘を持って肩を寄せ合って歩いていた。
いつ雨になってもおかしくはない。
いつも私の右手は湊の左手に握り締められていた。
「こんなに湿度が高くてじめじめしているのに、どうして六月に結婚式をしようと思うのかな。私なら時期をずらしたいと思うけど」
「時雨は現実的だね」
「だってそうでしょう?晴れた、抜けるような空の日に祝って欲しいと想うよ」
「僕は違うかも」
「あ・・・、ごめん。でも、花嫁には切実だよ!ドレスの心配だってしなくちゃいけないもの。でも、別に雨が嫌いなわけじゃないからね!」
「わかってるよ。時雨が雨を好きなことくらい、わかってる」
ジューンブライド。
その言葉をよく耳にして、あちこちの教会から鐘の音が聞こえる。
車で出かけた先で、散歩をしていた。
この街は、いたる所に小さな教会がある。
二人で散歩をしていたのだけれど、どの道にも教会へ向かう道を案内する看板があった。
湿った空気の中で幸せそうに笑う二人が、私達の視界に入ってきた。
「ジューンブライドの由来を知ってる?」
「そういえば、知らないなぁ」
「そうか。実はね、ヨーロッパの気候が由来になっているんだ。ヨーロッパでは六月が一年で一番雨が少ないといわれているから。後は、ローマ神話の神様が由来とも」
湊は淡々と話す。
日本は一番雨の多い時期なのに。
どうしてヨーロッパの言い伝えをそのまま幸せに結びつけるのか、私には理解できなかった。
そんな私を見て、湊がくすりと笑う。