だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「納得いかない?」
そっと問いかける声は、返ってくる答えを判っていて聞いている。
大きく頷くと、湊はにっこりと笑った。
「僕は雨が好きだから、六月は幸せな月だよ。栗花落の季節だしね」
ツイリ?
じっと湊の顔を見つめる。
こちらを向いて嬉しそうに湊は話し出す。
「栗花落は梅雨の始まりのこと。梅雨入りは栗の花が散り落ちる頃と重なるから。栗の花が落ちると書いて『ツイリ』と読む。梅雨は雨が降り続けるけれど、全て同じではない。沢山の表情を見せてくれる、鮮やかな季節だから」
梅雨が好きな人なんて、この世で湊くらいだと想った。
けれど、湊の愛でるものを好きな私にとって、それはとても嬉しいことに想えた。
だって、それは私と湊だけが共有できる『愛すべき季節』なのだから。
「そう考えたら、梅雨だって素敵なものだろう?」
「湊がそう想うなら、私だって同じように想えるよ」
「嬉しいね」
「とてもね」
その言葉に合わせて、湊の手をぎゅっと握りしめる。
それだけで、お互いを大切にしていると伝えられることは、なんて幸せなのだろうと想った。
教会から新郎新婦が腕を組んで歩いて来る。
真っ白なフラワーシャワーの中を、幸せそうな笑顔で歩く二人がとても眩しく見えた。