だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「時雨には、もっと現実的なものの方がいいかな?」
「結婚式に現実的、っていうのも切ないけどね」
「大丈夫。どれも言い伝えみたいなもんだから」
「気の持ちよう、ってことなのね」
「そうだよ。でも、きっと時雨は好きだと想う」
自信満々に湊は笑って、私を見つめていた。
湊は、きっと私よりも私を知っているのでは、と想う。
湊のくれるモノは、いつも素敵で。
カタチのあるモノも、ないモノも、私の好みを一番に考えてくれたモノばかりなのだ。
笑顔で先を促すと、湊は満足げな顔を教会へ向けた。
新婦が後ろを向いてブーケトスをしようとしていた。
「サムシングフォーを知ってる?」
サムシングフォー?
湊はどうしてそんなにも色々なことを知っているのか、と思わず顔を覗き込んでしまった。
「Something old,Something new,Something borrowed,Something blue.And a sixpence in her shoe.」
「相変わらず発音いいよね。それで、どういう意味?」
「なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの 。なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの 。そして靴の中には6ペンス銀貨を。これもヨーロッパの慣習なんだけどね」
「湊が何を勉強してたのか、分からなくなりそうだわ」
「綺麗な言葉が好きなだけだよ」
「それは、確かに。それで、どうしてそれらが花嫁に幸せをもたらすの?」
純粋に疑問だった。
特別と呼ぶほどのものでもなく、それでも、日常とも違うものだったから。