だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「空調を気にしたり、バックヤードでは自分のことなんてお構いなしに走り回ったり、舞台袖で涙を流したり。一生懸命な人は、見ていれば判るのよ。誰にでも出来ることじゃないわ」
湿った空気が充満し始めた部屋の中。
そこから逃げるように、二人で廊下へ向かっていた。
歩くたびに、顔すら覚えていないような出演者の人たちから声を掛けられた。
スタッフのみんなや、モデルの人達。
私はあくまでサポート役だった。
けれど、ちょこまか動いていたせいか、みんな私を見かけたことがあるみたいだった。
一人ひとりに、大きな声で挨拶をしていく。
その度に、みんなが『山本さん』と名前を呼んでくれる。
こんなに嬉しいことはない、と想った。
「シグの功績が、この挨拶の数だと思えばいいわ」
「功績だなんて・・・、そんな大袈裟なものじゃないですよ」
「何言ってるの。こんなに名前を憶えてもらえたのよ。素晴らしいことだわ」
「・・・はい」
「お疲れ様」
水鳥さんは、そっと肩に手を乗せて言ってくれた。
水鳥さんと同じようには、出来ない事が沢山ある。
けれど、同じでなくていいのだ、と気付いた。
水鳥さんの立場にいないから、出来ることがもっと多くある。
それに気付けたことは、とても喜ばしいことだった。