だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
第二運営本部には、今年の企画担当会社のチーフリーダーとうちのチームメンバーが控えている。
部長と水鳥さんだけは、運営本部でクライアントと一緒に運営を手伝っている。
今年はあくまで補助的な役割を任されているが、運営本部に入っているからには指示を出すこともある。
企画書を片手にタイムテーブルを確認し的確な判断をしている櫻井さんは、やはり一目置かれる存在らしい。
無線に飛び込んでくる慌てた声に対応しているのは先方のチーフリーダーだ。
しかし、いざ第二本部に入ると指示を出しながらチーフリーダーと議論をしている櫻井さんが目に入った。
「資料持ってきました!舞台の方は順調に進んでいます。ライトダウンしたら伝達に向かいます」
声をかけると櫻井さんが振り向いた。
重たい資料を机に置こうと部屋の中に入ると、私の方に向かって急いで歩いてきた。
「悪かったな、こんな物持たせて。森川たちを呼べばよかったのに」
ひょいと資料を抱えられて、私の腕はすぐに軽くなった。
目の前で申し訳なさそうにしている櫻井さんは、両耳に無線をつけている。
自分だって忙しいのだから、そんなに気をつかってくれなくていいのに。
部屋の中で打ち合わせをしていた森川たちが、一斉に立ち上がる。
多分もうすぐライトダウンになるので、舞台袖でのスタンバイをするのだろう。
ネクタイをしっかりと締め直し、三人は営業の顔になる。
男の人の仕事をしている顔つきは、本当に素敵だな、とぼんやり思う。