だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「くるんじゃないか?しぐれが望めば、きっと」
諭すわけでもなく、問い詰めるわけでもなく、ただ淡々と告げる。
櫻井さんの発する言葉は、しっかりと重さを使い分けている気がする。
すり抜けてくれない、でも重過ぎない言葉は、私に纏わり付いているように感じた。
「・・・そうですよね」
「貰い手があればな」
「もう、なんでそういうこと言うんですか?」
「本当のことだろう。そう、怒るな、って」
「・・・いいんですけどね、貰い手なんてなくても・・・」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ」
結局、選ぶのは自分自身だ。
そんな簡単なことを、また少しだけ実感した。
そして、櫻井さんは。
少し朧な世界から、私を現実に連れてくるのがとても上手だ。
それが喜ばしいことなのか、切ないことなのか。
私には判断が付かなかった。
ロビーの自動ドアが開く。
湿った空気が、梅雨を連れてきたことを実感させた。
各々ちゃんと準備をしていたらしく、傘を持っていない人はいない。
私も鞄の中から小さな傘を取り出した。