だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
幾度となく使った、この傘。
肩が濡れることに気がついたのは、二回目に二人で傘に寄り添った時だった。
出来るだけ近づいて、腕を絡めて。
傘を持つ湊の左手は、私を受け入れるためのスペースをしっかりと空けてくれていた。
滑り込ませた右手が抜けなくなればいいのに、と。
心の底から願った。
静かに降り出した雨。
梅雨の生ぬるい風。
そっと寄り添う二つの頭。
湿り気を帯びて、少しはねてしまう私の髪を。
それすら『いとしい』というように、優しく触る湊の手。
夏が近づいているのに、ひんやりと冷たかった。
時折少し背伸びをして、自分の唇を隣にある頬に押し付ける。
嬉しい、というように顔を傾けてくれる瞬間がたまらなかった。
そんな、甘い甘い日々。
幸せで幸せで、このまま溶けて二人とも無くなってしまえば、と。
そうすれば、二度と離れることなど出来ないと。
そんな幻想に浸っていた、あの頃。
そんな欠片が、この傘には染み付いている。
今ならわかるのに。
そんな馬鹿げた考えが、いかに無意味であったかを。
『一つ』になってしまう、苦しさを。
『二人』だったから、幸せだったことを。
見つめあい、その人に触れ。
そして、離れてしまいそうな不安と同時に、互いに『抱き締め合う』事の幸せを感じていたことを。
今なら、わかるのに。