だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「ちょっと!!!いいじゃない、二人に抱きつくくらい!」
「ダメだ」
即答したのは、櫻井さんだった。
絶対零度の微笑みは崩れることがない。
冷静な声で櫻井さんに諭される。
完璧な顔で笑っているように見えても、私を見つめる目が本気だと言っている。
こんな場所で、その顔をするのは反則だ。
それは櫻井さんの『本当の顔』だ。
そんな顔をされたら、文句も言えなくなってしまうから。
「櫻井君、そのぐらいにしたら?シグがあまりにも可哀想だわ」
「そうだぞ。山本をからかいたのは分かるが、松山たちが可哀相じゃないか」
「そうよ。若い子達をいじめちゃいけません」
そんな中、水鳥さんと部長が助け舟を出してくれる。
少しだけ空気が張り詰めているようで、なんだか気まずくなってしまった。
立ち上がった水鳥さんは櫻井さんの肩に手をおき、そっとなだめる。
そのまま、水鳥さんはふわりと横を向いた。
「松山君、篠木君、お疲れ様」
水鳥さんが、二人の首の辺りに手を回す。
みるみるうちに二人の顔が真っ赤になり、体ごと強張ってしまったようだ。
水鳥さんの色香にやられた二人は呆然としたまま、少しの間立ち尽くしていた。