だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「櫻井。いい仕事をしたな。運営本部にトラブル連絡は一切入ってこなかった」
「ありがとうございます」
櫻井さんが立ち上がる。
「ただ、あまりいい仕事をしすぎるな。俺のハードルが上がる」
みんながきょとんとした後、一斉に吹き出した。
櫻井さんはとても間抜けな顔をして、それでもとても嬉しそうに笑っていた。
「なんですか、ソレ」
「本当のことだろう。御堂会長からクギ刺されたんだぞ。『櫻井さんだけでもいいかもしれませんね』って」
「有り難いお言葉です。追いついて、みせますよ」
「楽しみにしてるぞ。お疲れ様」
「ありがとうございます」
尾上部長が差し出した手を握って、櫻井さんは笑った。
自信に満ちた顔。
また少し、この人は素敵になった。
尾上部長は、握手をしたまま櫻井さんを抱きかかえた。
自分よりも少し大きな櫻井さんの肩に、ぐっと手を回して。
櫻井さんの肩が少し震えたけれど、褒められて嬉しい、なんてことを人前で見せる訳もなく。
しっかりと、前を見据えた表情をしていた。
尾上部長に憧れて、必死にその背中を追いかけている櫻井さん。
けれど、尾上部長はやっぱり凄い人で。
仕事をすればするほど、その存在が遠くなるような、そんな人なのだ。
理想の上司であり、理想の社会人でもある。
その人から褒められたことは、この先の櫻井さんにとって大きな『自信』となるはずだ。