だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「森川。モデルからの評判はピカイチだったぞ。モテモテだな」
「そんなことは、ないと思います」
「謙遜しなくてもいい」
森川は、ちょっと困ったような顔で立ち上がった。
尾上部長は、心なしかニヤけたような表情を浮かべていた。
「それだけ、お前の仕事が評価されたってことだ。しっかりと櫻井の背中を見ておけよ」
「はい。櫻井さんに教わったことを、最大限活かしたつもりです」
「あぁ。でも、それだけじゃない。自分らしさを、見つけたな」
「まだまだですが」
「それでも、大切なことだ。よかったな。お疲れ様」
森川は小さく頷いて、綺麗にお辞儀をした。
言葉を発しない森川を見て、やっぱりこういうヤツだよな、と思った。
自分の感情をしっかり受け止める森川が同期で、本当に良かったと思う。
「松山、篠木。やっとひとつ、大切なものを見つけたな」
「「え・・・?はい」」
二人は目を合わせてきょとんとしていたが、静かに立ち上がった。
何のことか分からない、という顔をして部長を見つめる。
「お互いを認め、お互いを意識し助けあう。そういうのを良きライバルって言うんだぞ」
「ライバル・・・」
「松山と、俺が?」
「そうだ。まだまだ切磋琢磨してもらわないとな。お疲れ様」
「「はいっ!ありがとうございます!お疲れ様でしたっ!」」
二人は揃った声でそういって、大きくお辞儀をした。
社会人らしいとはいえないけれど、それは熱意のこもったお辞儀で。
尾上部長はこの上なく嬉しそうだった。