だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「森川。モデルからの評判はピカイチだったぞ。モテモテだな」


「そんなことは、ないと思います」


「謙遜しなくてもいい」




森川は、ちょっと困ったような顔で立ち上がった。

尾上部長は、心なしかニヤけたような表情を浮かべていた。




「それだけ、お前の仕事が評価されたってことだ。しっかりと櫻井の背中を見ておけよ」


「はい。櫻井さんに教わったことを、最大限活かしたつもりです」


「あぁ。でも、それだけじゃない。自分らしさを、見つけたな」


「まだまだですが」


「それでも、大切なことだ。よかったな。お疲れ様」




森川は小さく頷いて、綺麗にお辞儀をした。

言葉を発しない森川を見て、やっぱりこういうヤツだよな、と思った。


自分の感情をしっかり受け止める森川が同期で、本当に良かったと思う。




「松山、篠木。やっとひとつ、大切なものを見つけたな」


「「え・・・?はい」」




二人は目を合わせてきょとんとしていたが、静かに立ち上がった。

何のことか分からない、という顔をして部長を見つめる。




「お互いを認め、お互いを意識し助けあう。そういうのを良きライバルって言うんだぞ」


「ライバル・・・」


「松山と、俺が?」


「そうだ。まだまだ切磋琢磨してもらわないとな。お疲れ様」


「「はいっ!ありがとうございます!お疲れ様でしたっ!」」




二人は揃った声でそういって、大きくお辞儀をした。

社会人らしいとはいえないけれど、それは熱意のこもったお辞儀で。

尾上部長はこの上なく嬉しそうだった。




< 55 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop