だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「山本」
「え?あ、はい」
静かに名前を呼ばれたので、驚いて立ち上がる。
営業メンバーへの賛辞かと思っていたのに、突然呼ばれた名前。
どうして最後に呼ばれたのかと不安になり、上手く笑うことが出来ない。
自分なりに精一杯仕事をして、出来る限りの事はした。
尾上部長にどんな評価をされようとも、今の私をしっかり受け止めなくてはいけない。
「完敗だ」
「はい?」
何を言っているのか判らず、思わず首をかしげてしまった。
完敗?
特に勝ち負けなんて決めるような現場じゃないけれど。
尾上部長がふっと笑う。
隣で、水鳥さんが勝ち誇った顔をしている。
「今回のアシスタントは当初、山本に全て任せるつもりじゃなかった。だが、水鳥嬢がそうしないなら自分は現場に出ない、と言い張ってな」
「えぇっ!?」
驚いて水鳥さんを見つめる。
そんなバクチを、平然とした顔でやってのけるなんて。
やっぱりこの人には適わない、と思った。
「シグが出来ないわけない、って言ったのよ。」
「だから完敗だと言っただろう。見事にやり切ってくれた。だから、明日全員が休めるんだからな」
「シグが一人でやり切ったら、みんなが休み。もし無理だったら、部長が休み。私は部長の代わりに会議に出る、って約束だったの。」