だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「よく、そんな賭けしましたね。水鳥さん」
「だって、信じてたもの」
「そんな、出来ないことだって沢山ありますよ」
「でも、シグは努力してくれるから。それが一番大切なのよ。あと、責任感。途中で投げ出すような子じゃないわ、貴女は」
「水鳥嬢は人を見る目があるからな。水鳥嬢にも負けない評価をクライアントからも、先方ディレクターからも頂いた。合格点以上だ。本当にお疲れ様」
「シグの成長が一番嬉しいわ」
二人は本当に意地悪で、とても尊敬する上司だ。
絶対に、私を泣かせたかったに違いない。
悔しくて泣いてやるもんかと、どんなに堪えても、目の端から流れるものを止められるわけがない。
何も言えず、ただ頭を下げる。
こんなにも、期待をしてくれていたなんて。
こんなにも、温かく見守ってくれていたなんて。
こんなにも、育ててくれていたなんて。
「・・・っ、・・・うぅっ・・・」
何も言葉を返せない。
何か言いたくて、たまらないのに。
でも、この空間が何も言わなくてもいいと言ってくれている。
隣からそっと立ち上がる気配がする。
頭を下げたままの私を横から抱え込んで、肩をぐっと掴まれる。
熱くなった目の端を、驚くほど冷たい指先がなぞる。
肩を組まれたままで、ひとつひとつ丁寧に私の涙を拾うしぐさ。
――――――冷たい手――――――
知っている気がしたけれど、顔を上げて見つめる顔はやっぱり違う顔だった。
私の望んでいた人ではない、人。
けれど櫻井さんは嬉しそうに私を覗き込んで、頭をぽんぽんと押さえる。