だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「よく頑張ったな。来年もよろしく頼むぞ、アシスタント」
やっぱり言葉は出ないけれど、何度も頷いて答えた。
泣いている状況が恥ずかしかったけれど、今はこれを止める方法が判らないので仕方がない。
少し落ち着いてきた私の背中を、櫻井さんはぐっと押してくれた。
しっかりと前を向いて、声を絞り出す。
「自分が出来ることはまだまだ少ないですが、それでも精一杯のことをしたいと思います。これからもよろしくお願いします。本当にお疲れ様でした」
水鳥さんほど、完璧にこなしていけるわけではないい。
櫻井さんほど、熱く仕事に向き合えない。
森川のように、冷静でいられない。
後輩達のような、ライバルもいない。
それでも、私がここにいる意味が確かにある。
このチームの中で、そして会社の中で、必要とされている。
それはすなわち、社会という領域の中に、確かに私の居場所がある証拠だった。
尾上部長がグラスを持って立ち上がる。
それを見て、全員が自分の飲み物を手に立ち上がった。
私の飲み物は、櫻井さんが手渡してくれた。
松山が少し潤んだ目で、心配そうに私を覗く。
大丈夫と言うかわりに、にっこりと笑って見せる。
「俺と水鳥嬢は明日も仕事なので、この辺で。飲み過ぎるなよ。じゃあ、お疲れ様!」
お疲れ様です、という声とともにグラスがぶつかる音がする。
乾いた音が鳴り止んだ後、みんなで喉を鳴らす音が響く。
宴会終了の儀式みたいなもので、うちのチームは全員で杯を乾かして終了なのだ。
空になったグラスは、どんっとテーブルに置かれ拍手が起こった。
本当に幸せな瞬間。
仕事の達成感と、チームのみんながいる嬉しさ。
今日は、今までで一番幸せな飲み会だった。