だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「舞台袖に行くか?」
三人の背中が廊下の人ごみに埋もれるまで見ていた私に、囁くように櫻井さんは言った。
すぐ隣にいる櫻井さんを振り向かずに、首を横に振った。
隣からは、パラパラと資料をめくる音がしている。
「舞台袖を見ることより、第二本部で出来ることを手伝います」
「本当は行きたいんだろ?」
「いいえ」
現場では、適材適所でスタッフが仕事をしている。
自分の力を必要としている場所で、出来る限りのことをするのが重要なのだ。
それに、少しでも近くで櫻井さんの仕事を見てフォローを出来るようになりたいと思っていた。
この人の仕事を知らないと、主任になった私はアシスタントとして役に立てなれないからだ。
「素直じゃないな」
「そんなんじゃありません」
「まぁ、いいさ。それじゃあ、モニターチェックしながら進行表の確認するぞ」
ぽんと頭の上に大きな手を置いたかと思うと、すぐにモニター前の机に向かっていく。
会社のガラス張りのセミナールームほどの広さしかない約八坪程度の第二本部は、大きなモニター用テレビで会場の様子を確認できる。
机には先方のチーフリーダー、男性スタッフさんが二名、櫻井さんと私が各々の資料を持って座るかたちになった。
進行表を確認しながら、モニターをチェックする。
それと同時に、フィナーレまでの流れを確認し、配置転換の準備指示を出していく。