だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「何か手伝う?」
「もう出来るから、大丈夫だよ」
そっと背中に問いかけると、カップを両手に湊は振り向いた。
そういって茶色の液体をカップに注ぐ。
カップで揺れる液体から、とてもいい香りがした。
私が一番好きなダージリン。
湊の淹れる紅茶はしっかりと温度管理がされていて、喫茶店で頼むよりもずっと美味しかった。
ママは紅茶が大好きな人なので、それの影響が強いようだ。
アールグレイ。
オレンジ・ペコー。
アッサム。
イングリッシュ。
アフタヌーン。
セイロン。
他にも並べられた沢山の紅茶たちは、名前を覚えるのも一苦労だ。
けれど、淹れる度に違う香りを漂わせる茶葉たちを覚えていくことすら楽しかった。
お盆の上にのせられた紅茶をこぼさないように、リビングまで運ぶ。
流しの中にポットを置いてから、湊もリビングのソファーに腰かけた。
リビングテーブルの上にカップを置いて、私も湊の隣に座る。
二人で並んで紅茶を啜った。
喉を滑らかに滑り落ちる熱い液体は、身体の中に染み込んでいった。
「湊の淹れる紅茶は、いつも優しい味がする」
私がそう言うと、湊は自分のカップをかたんとテーブルに置いた。
そして、私のカップにそっと手を伸ばす。
するりとカップを手の中から抜き取って、そっと湊のカップの横に寄り添うように置いた。
その手は私の頭を抱えて、湊の方へ引き寄せられた。
私はそれに逆らわず、湊の肩に頭を預けた。