だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「大切な人に紅茶を淹れると、自分の気持ちがその味になるからだよ」




だからかな。


湊の優しい気持ちが紅茶になっていたのだ、と。

だからこんなにも温かくなるのだ、と。



湊は窓の外を眺めていた。

降り続く雨を、じっと見つめていた。




「梅雨が始まったね」




窓の方へ視線を向けて、呟くように言った。

私の頭を撫でながら、湊は口を開いた。




「五月雨と言うんだよ。」


「サミダレ?五月じゃないのに五月雨なの?」




小さな子に教えるように、湊はゆっくりと囁いた。

私は純粋に疑問をぶつけた。


だって、今はもう六月の半ばで、五月はとっくに終わっていた。

私の質問に小さく頷いて、湊は続けた。




「五月雨は梅雨の別名なんだ。五月は旧暦のことで、ちょうど今くらいの時期にあたる。小さく乱れると書いて『小乱れ(さみだれ)』とも言って、恋人を想う憂いを表現したりもするんだよ」




恋人を想う憂い。

確かに雨が続く様子は、相手の気持ちががわからなくてモヤモヤした気持ちに似ているのかもしれない。



梅雨よりも『五月雨』。

湊にとって綺麗なもの。



それは音の響きも言葉の意味も、含まれているのかもしれない。




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