だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
櫻井さんは、チーフとしての役割を十分すぎる程果たしていた。
オフィシャルパートナーとして途中から参加しているはずなのに。
最初からこのプロジェクトの中心メンバーだったのではないか、と思わせるほど。
あぁ、やっぱりこの人は仕事馬鹿だ。
そして、とても真面目な人だ。
いつも見えている櫻井さんは、やっぱり本物じゃないみたい。
こうして垣間見る顔が、いつも隠されている櫻井さんなのかな、と思った。
私は櫻井さんの隣で伝達事項をまとめ、それぞれのスタッフと本部への連絡係をしていた。
相手のチーフリーダーの意見を最優先し、最も効率の良い方法を提案する櫻井さん。
改めて、凄さを思い知らされた。
先方のスタッフも的確な二人の指示に、余裕の表情すら浮かべていた。
キラキラと輝きを放っていたステージがライトダウンしたのをモニターで確認し、各自持ち場へのスタンバイに向かった。
私は、本部への伝達事項を持って机から立ち上がった。
「しぐれ。本部に行ったら、そのまま舞台袖に行って森川たちのフォロー頼む」
出口に向かって歩いていると、櫻井さんに声をかけられた。
振り向いて立ち止まると、櫻井さんは立ち上がって近づいてきた。
真剣な顔をしていたさっきまでとはうって変わって、いつもの笑い方を顔に浮かべている。