だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
小乱れ...サミダレ
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頭の下で振動を感じた。
チャリチャリという音と、男の人が話し合う声が聞こえた。
ぼんやりした頭で温かい感触を思い出して、ぎゅっとしがみつく。
触った感覚がつるつるとしたスーツだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
驚きと衝撃で勢い良く起き上がる。
そして、今がタクシーの中で、櫻井さんの家に向かっていたことを一瞬で理解した。
びっくりして櫻井さんから離れると、同じように驚いた顔をした櫻井さんと目があった。
すぐににやりと笑い、いつもの意地の悪い顔になったけれど。
「お客さん、お疲れでしたね。ゆっくりおやすみ下さい。ありがとうございます」
「ありがとうございます。よだれ垂らして寝てるから、どうなるかと思いましたよ」
「・・・なっ!よだれ・・・っ!」
にやりとした顔で見られるのが恥ずかしくて、簡単にお礼を言ってそそくさとタクシーから降りる。
後ろから、くすくすと笑う声と共に櫻井さんが降りてくる。
本当にこの人は。
どうしてこうなのだろう。
私をからかうことを生きがいにしてるみたいに感じる。
そんな風な自分を装ってる、と。