だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
ほんの十分程度の間にぐっすり眠ってしまったことが、恥ずかしいやら悔しいやらで言葉にならなかった。
とりあえず髪の毛を整えて、マンションの前に立つ。
隣に並んだ櫻井さんが、私の頭にぽんと手をのせた。
「冗談だ。やっぱり疲れてたんじゃないか。大丈夫か?」
もう、あの意地悪な顔ではなかった。
少し申し訳なさそうに笑うその顔を見て、やっぱり悔しくなってしまった。
「まだまだ大丈夫です。ゆっくり飲み明かしましょうよ」
むん、と力こぶを作るように右手を上げて見せる。
少し寝たおかげで本当にすっきりしていた。
いつもよりいいペースで飲んでいたので、結構お酒も回っていたみたいだ。
「そうか、じゃあ森川たちが来るのを家で待とう」
「はい」
マンションのエントランスで、オートロックを解除する。
その背中についていく。
よく飲み会の会場になる櫻井さんの家は、いつ来てもキョロキョロしてしまう。
立派なマンションに住んでいるこの人は、やはり『デキル男』なんだな、と実感する。
エレベーターに二人で乗り込んで、八階のボタンを押す。
比較的広めなエレベーターでも密閉されたこの空間は、息遣いまで伝わってしまいそうで苦手だ。
無言のまま八階に着いて、その階の一番奥の部屋まで向かう。
白い壁に薄いグレーのドア。
駅も会社も近いこのマンションは、私達の最高の飲み場所だ。