だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
がちゃりという音とともに、グレーのドアが開かれる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
ドアを押さえたまま中へ促される。
手を伸ばして電気をつけてくれる。
櫻井さんは、私よりも先に入ろうとしない。
いつもの事だけれど、住んでいる本人より先に入るのはいつまで経っても慣れないものだ。
靴を脱いでいると、後ろでパタンと扉が閉まる。
邪魔にならないように、すぐに靴を脱いで端に立つ。
それを見上げて、櫻井さんがくすりと笑う。
しょうがないな、というように。
「別に先に入ってくれて構わないぞ」
「いいえ、そんな訳には」
「遠慮するな」
彼女でもないのに彼女扱いされるのは、今周りに誰もいないからだろう。
感情を抑えようとしない櫻井さん。
もともと持っている男らしさや優しさが全開で、思わずときめいてしまいそうになる。
いや、ときめいているのかもしれない。
自分が認めたくないだけで。
すたすたと中に入っていく背中を見つめながら、そういえば櫻井さんも線の細い背中をしているな、と想った。
細いだけでなく、どこか頼りになりそうな後姿。
とても懐かしい、と想った。